2012年02月01日

TPP交渉対象外となりそうな混合診療

 1月下旬にアメリカ側が混合診療全面解禁をTPP交渉から外すと日本側に伝えていたことがわかった。
 日本国内の反対論に配慮したと見られている。

 混合診療については、保険財政健全化と先進医療の開発と速やかな導入という視点からは賛成が多くなり、国民皆保険制度維持という視点では反対が多くなる。

 混合診療賛成派は、これまで自由診療で全額患者の自己負担だった治療で、一部は健康保険でカバーされるようになるので、負担が減るから良いではないかと主張する。
 がん治療に効果がある重粒子線治療は、今は自由診療で全額患者負担となり、金の無い患者はこの治療を受けられない。混合診療なら一部は保険が適用されるので患者の負担が減るとはいっても、混合診療でこの治療の自己負担分がどれだけ減るのかはよくわからない。混合診療が認められても、患者の払う保険適用外の部分の治療費が重ければ、やはり金の無い患者には無理だ。

 混合診療が導入されたとしても、現在の保険適用範囲がそのまま変わらずに、高度な先進医療部分だけが保険外となるなら、国民すべてに今の医療水準は維持できる。
 だが、保険適用外とされた先進医療が永遠に保険適用外であれば、保険適用で受けられる医療が時代遅れのものだけになってしまう。

 また、医療費削減が混合診療導入の目的としてあげられているので、現行の保険適用範囲が削られるのではないかとの不安もある。
 健康保険の自由化という名目で、公的健康保険が負担していた範囲が狭められ、多くの一般的な医療が民間医療保険の範疇になってしまうかもしれない。 
 ここに外資系保険会社・金融機関の思惑があるとも言われている。
 外資系だけでなくて、日本の保険会社も安定収入が期待できる通常の公的保険適用範囲の医療部分に参入できれば、儲けることができるので、日本の民間保険会社も混合診療導入に熱心だった。

 ところで、混合診療の範囲がどこで決まるかといえば、政府の委員会や審議会で決まる。
 そこに保険財政立て直しを名目にして公的保険の範囲を狭めようとする委員が多ければ、健康保険は民間の保険へと移行する傾向が強まる。
 だが、もし公的保険適用の範囲を広げようとする委員が多ければ、先進医療なども順次公的保険が適用されるようになるかもしれない。たとえば、重粒子線治療もそのうち保険適用となるかもしれない。
 そうなると今度は、自由診療の重粒子線治療のカバーをうたい文句にしている現在の民間の医療保険の売りが失われる。もしそのときまでに重粒子線治療よりも優れた先進医療が登場していなければ、民間保険会社は新たな売りが見つけられず、収益を落とすことになり、公的健康保険の民業圧迫となって、これはこれで揉めそうだ。

 現行の国民皆保険制度のもとでも、効果が認められ、導入されてからかなり年月の経過した先進医療については順次保険適用してほしいというのも、患者の切なる願いだろう。
 古い医療権益を守るために新しく効果のある医療技術が保険適用外となっているのではないかとの疑念もある。

 もうおわかりのように混合診療を導入しなくても、現行の保険制度のもとで、公的保険の範囲を狭めることも広げることもできる。
 現行の保険制度でも、民間活力導入や保険財政再建のうたい文句で自由診療の範囲を広げることができるし、一般国民に先進医療の恩恵を施そうとすれば、自由診療を増やさずに保険適用の軽重を効果の薄い古い医療から効果の高い先進医療へと入れ替えることもできる。

 とにかく、患者の思いは様々で、医者も様々だ。そこに様々な民間企業の思惑や、国の財政担当者の思惑も絡み合って、健康保険と医療の問題を解決するのは楽ではない。



posted by 春眠 at 11:37| Comment(1) | 政治・経済・社会・文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月03日

京大原子炉実験所で語られた黒い雨

 京大原子炉実験所で学者たちが福島原発事故での放射能の農作物への影響について議論、というよりはリラックスして会話をしている様子がユーチューブにアップロードされている。
 宮越吉郎という人が昨年の10月に撮影したもので、原発の危険性を訴え続けた小出助教や今中助教を中心に京大原子炉実験所と京大農学部の研究者たちが登場している。
 学術的な内容を話しているのだが、皆非常にリラックスしていたこともあって、公式の場で話されるようなすでに確定した内容だけでなくて、可能性や発想が語られていて、とても興味深いものとなっている。
 グラス片手に語り合っても良さそうな雰囲気があったが、もちろん、彼らはアルコールはおろかお茶も飲まずに話している。

 ときとして学者たちのリラックスした会話の中に真実が見えることもある。
 たとえば、ニュートンが万有引力の法則を発見したと言われているが、当時のイギリスのアカデミアではそんな会話がよくされていたという。ニュートンはその断片的な会話をまとめただけという専門家もいる。
 真理が噂話や雑談の中に転がっていることがままある。

 会話は、福島の雨水や水道水の放射能汚染の話から始まり、福島とチェルノブイリの農作物の放射能汚染の話へと進む。
 今中助教は、チェルノブイリでは森の中で育つものはベリー類やキノコを含めてすべて汚染されているが、りんごのような大きい果実は汚染が少なかったと語った。
 福島原発事故でも、キノコの汚染は酷く、大きな果実の汚染も無いとは言えないが、小さかったようだ。

 日本のウラン採掘現場となっていた人形峠では、循環型の有機農法をやっていたため、放射能濃度の高い野菜ができてしまったと京大の農学研究者は報告する。だから、農作物を肥料として田畑に返すようなことをするといつまで経っても放射能が減らないのではと推察している。

 チェルノブイリの森の中の野生の食べ物、キノコやベリー類は、自然が与える循環型の栄養分によって放射能も循環してしまうため、いつまで経っても高レベルの放射能濃度で止まってしまったのだろう。
 同じくチェルノブイリの牛乳で人々が被曝したのも、乳牛を自然環境で育て続けたために放射能の循環が起きてしまい、放射能汚染を深刻にしてしまったのかもしれない。
 エコロジーであることがチェルノブイリでは裏目に出てしまった。

 京大の研究者たちは、農地からのセシウムの除去は非常に難しいので、有機農法を諦めてカリウムを多く含んだ化学肥料を多めに使えば、農作物へのセシウムの侵入を減らせるだろうという。今中助教によればチェルノブイリでの経験もあるようだ。
 小出助教は、カリウムの肥料を使えば、カリウムでの被曝が増えてしまうから、どっちもどっちかもしれないと付け加えていた。化学肥料の線量は結構高いらしい。
 これは、笑い話のような笑えない話だ。

 また、去年の福島の農作物は植物病が少なく、害虫もつかなかったため豊作だったという農業研究者からの報告があった。
 この件に関して、今中助教は広島原爆の爆発後に黒い雨の降った農地は豊作だったという噂話に触れた。
 放射能で害虫が死んでしまったのかとも思えるが、あくまでも噂話のレベルだと今中助教は断っていた。
 だが、ちょっと気になる黒い雨の噂話ではある。

posted by 春眠 at 10:17| Comment(0) | 原発・放射能・自然エネルギー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月05日

進展しそうな沖縄の基地移設

 今日、毎日新聞は日本政府関係者の話として、沖縄基地移設に関してグアム移転を先行させると伝えている。
 米海兵隊の移転先はグアムだけでなく、ハワイ、フィリピン、それにオーストラリアが含まれるという。
 この移転先を見ると明らかに中国の海洋進出、特に南シナ海域への中国海軍の脅威を意識したフォーメーションとなっている。

 フィリピンはかつて国内の米軍基地を閉鎖し、米軍を撤退させた過去があるのに再び新たに米軍を受け入れるというのは驚きでもある。
 もしフィリピンによる米海兵隊受け入れが本当に進むなら、フィリピンが軍事大国・中国のフィリピン領海域への進出に対する強い懸念を明示することになる。
 また、オーストラリアへの米軍駐留については、昨年11月にオバマが興奮して発表しており、オーストラリア政府からも歓迎されている。
 西太平洋の米軍を沖縄に集約するのではなくて、西太平洋諸国に分散して配置することで、中国海軍への壁をつくることができる。軍事戦略的には、通信機器の発達で分散型の配置でも、まとまったオペレーションができる技術はあるので、悪い案ではないだろう。

 ただ、このニュース源が、日本政府関係者となっているのが気になる。官邸なのか、防衛省なのか外務省なのか、政務三役なのか高級官僚なのか、中堅官僚なのか、これは観測気球で流されたのか、かなり煮詰まった実際の話なのか。ニュース源の意図も入っているはずなので、そこが不明となっているのがむず痒い。

 そして、グアム移転を先行させることで普天間に固定化するかどうかは、今後の日本政府の対応次第だろう。
 昨年の震災後にアメリカ議会の軍事関係の重鎮議員であるレビンとマケインが普天間を既設の嘉手納に統合し、辺野古への移設を諦めるようにと発言している。嘉手納統合案は地元にも反対はあるが、かなり歩み寄った意見ではある。
 アメリカ議会でこのような発言が出た理由は、日本には大震災で移設の費用が無いだろうということだった。
 だが、その他に、東日本大震災のトモダチ作戦で、米国本土を母港とする空母ロナルド・レーガンによる非常に効率的なヘリコプターのオペレーションができたことも、米軍が日本駐留に拘る理由を薄めたと思う。
 それでも、西太平洋の壁に振り分けられる兵力が全体として減ると、中国海軍の海洋進出への防御での弱さを見せることになるので、軍事関係者は総兵力は維持したいと望むだろう。

 沖縄の市議団もアメリカの議員と交流しているようで、議員間の理解は深まっていると思うが、軍事戦略、軍事戦術については、米国防総省は議員よりも米軍の意見を尊重するだろうから、議会の意見と行政の意見の食い違いも出て来る
 日本でもよくある政府と議会の対立のようなものだ。
 行政の論理・都合と議員の背後にいる人々の思いはしばしば矛盾し、対立する。

posted by 春眠 at 11:43| Comment(0) | 外交・軍事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月06日

沖縄基地移設と議会と政府の関係

 沖縄の基地移設問題は、グアム移転を先行させるとの日本政府関係者の話によって、動きが慌ただしくなってきた。
 グアム移転と辺野古移設は同時と主張してきた米国政府も軟化したように見える。

 普天間という一つの飛行場をどこに移設するかは軍事戦略上のテクニカルな問題で、米国政府としての重大な政治課題とはならない。
 移設が進まなければ、アメリカの政治リーダーは業務が滞っているという見方をするだけだろう。アメリカ政府には仕事のできない官僚がいると思う。

 ところで、グアム移転を先行させた大きな理由は、昨年11月の米軍のオーストラリア駐留決定だろう。これはベトナム戦争後、アジア地域でのアメリカによる最大の軍事的な決定と言われている。オバマもこの決定に持ち込んだことには自信を見せていて、アメリカの防衛予算を削ってもアジアを犠牲にしないと力強く宣言した。
 沖縄の地元民とすれば、アジアを見捨ててくれてもいいのにという思いもあるだろうが、この米豪の決定で、米海兵隊移転先のオプションが増えた。
 しかも、フィリピンまでが移転先の候補になっている。
 それにプラスして、トモダチ作戦のときにヘリ空母を、機動力を発揮して運用できたことも常駐軍隊の必要性を減じていると思う。

 ここは正念場とばかり、帰国したばかりの沖縄市議団に続いて辺野古のある名護市の市長がアメリカに向かった。アメリカの議員や官僚、政策研究者たちとのミーティングが予定されているようだ。
 外交交渉の場合、防衛関連はかなり専門的なため、議会が細かな交渉に口出しすることはない。戦争を始めるときも、ホワイトハウスの計画を議会は承認するくらいで、戦争の計画は大統領や側近のスタッフ、軍人、行政機関で策定される。
 議会にとって関心を払うべきは、細かな内容よりも予算と大きな枠組みのほうだ。

 今回はいつもは日本を叩くアメリカ議会が日本に同情を示している。
 日本が輸出大国だった80年代は、アメリカ議会が日本を叩きまくり、アメリカ政府が日本を擁護した。大統領が拒否権を発動できるアメリカで、議会の力は制限されている。
 アメリカ議会が同情してくれているといっても、日本政府がアメリカの交渉担当窓口をスキップしてアメリカ議会に頼るのも、別の意味で問題だろう。万が一アメリカ議会に頼ると別の案件で日本がアメリカ議会に叩かれたときにアメリカ政府が日本を擁護してくれなくなる恐れもある。

 とはいえ、民意に近いところにいる日米の政治家が、政府間交渉とは別に交流するのは日米の相互理解のために悪いことではない。
 細かな外交交渉はどうしても専門家としての官僚、それに防衛関係なら軍人の発言力が強くなるが、民意に基づいて選ばれた議員の声が大きくなれば、基地移設のような細かな内容であっても、それを無視できず、外交官も軍人も別の方法を考えざるを得ない。

 普天間基地問題は、多くの問題を抱えるアメリカにとって最重要の課題ではないだろうが、日米両政府にとってちょっと複雑な外交案件となっている。

posted by 春眠 at 17:08| Comment(0) | 外交・軍事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月08日

パナソニックの赤字と人々にとってのテレビ

 パナソニックは2012年3月期の決算が過去最悪の7800億円の赤字に落ちることを発表した。このところ国内電機メーカーの酷い業績予想が次々と発表され、日本の電子産業の落日を思わせる。

 国内電機メーカーの足を引っ張っているのは、テレビ事業だという。
 震災による需要減もあったろうし、円高やタイの洪水の影響もあったし、海外メーカーとの価格競争も激しい。
 テレビ事業の業績不振要因に今年起きた出来事をいくつかあげているが、パナソニックのテレビ事業が不振なのは今年度だけではない。過去2年も連続で営業赤字だった。
 地上波デジタル化によって、家電業界は新しいテレビ・ライフを提案し、テレビ事業再生の起爆剤にしようとしていたのに目論見がはずれた。

 家電業界全体のテレビ出荷台数については、一昨年は前年比84%増で、昨年は7月までは同32%増となり、地上波デジタル完全移行を目指して、テレビの出荷台数が上がっていたことはわかる。

 ところが、地上波デジタル完全移行が終了した昨年8月以降はさっぱりテレビが売れないようだ。
 また、昨年9月には、NHKの解約が9万件超となったことも伝えられた。これは、僅かとは言え、テレビ視聴者数の減少を示している。

 本当に安値攻勢だけでメーカーのテレビ事業が儲からなくなっているのかを疑う。
 テレビの買い替えにしても、テレビを見られなくなるとはっきりした理由は無いものの何か困るのではないかとの防衛本能で買い替えた者が多いからこそ、高価なものよりも安売り品に人々は飛び付くので、メーカーの収益には貢献しない。
 テレビ局や家電メーカーが考えているほど、人々はテレビ視聴を重視しなくなってる。
 テレビをデジタル化しなくても、PCをインターネットにつなげば、世界中から情報と映像を受け取ることができるし、PCユーザーの発信の手段もいくつもある。
 PCとインターネットに慣れた人々は、デジタル化されたテレビを相手にしてる暇は無い。

 パナソニックは半年前の通期予想で、テレビ事業の業績が悪化する理由として震災の影響をあげていた。
 それは当たっていた。
 震災による原発事故で、原発推進派よりのテレビ報道に人々はうんざりしたのだ。
 テレビの必要性について多くの人々が疑問に思い始めている。

 価格競争だけでない、もっと根本的な問題がテレビにあるとすれば、その問題を読み誤ると、大手家電メーカーは再生の道を誤ることになる。

posted by 春眠 at 11:14| Comment(0) | 政治・経済・社会・文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。