2011年11月19日

米軍のオーストラリア駐留

 アメリカのオバマ大統領が、11月16日、17日と相次いで、アジア地域における米軍のプレゼンスの拡大を発表し、これをニューヨークタイムズをはじめとする米国の主要メディアは一斉に報じた。
 このプレゼンスの拡大は、ベトナム戦争終結後のアジア地域の米軍にとって初めてのことであり、その持つ意味の重要性が見えて来る。

 驚くべきことに、米軍はオーストラリアに2500人の海兵隊を常駐させることを決めた。将来的には航空部隊も配置するという。

 これはベトナム戦争後初のオーストラリアとの間での米軍の長期駐留における合意であって、中国封じ込め政策を始めたのではないかとの疑念が中国政府高官の間に生まれている。
 中国外務省スポークスマンはこの決定に関して、この地域で軍事力を拡大するのは不適切であり、この地域の国々の利益にならない、と反発している。
 空母を建造するなど海軍力を強化し、その経済成長力でもって先進国を取り込み、アジアでの軍事プレゼンスを好きなように拡大してきた中国にとって、今回のアメリカとオーストラリアとの軍事的合意は量的にはたいしたことは無くとも、地政学的に重要な意味を持つ。

 オバマは17日のオーストラリア議会での演説で、オーストラリアへの米軍駐留決定に関してかなり踏み込んだ発言をしている。
「計画的かつ戦略的な決定である。環太平洋国家としてのアメリカは、この地域の未来作りのために、より広範で長期的な役割を担う。国防予算削減でアジアを犠牲にすることはない」
 これを字義通りに解釈すれば、拡大する中国の潜在的脅威に対して、アメリカがアジアの同盟国を見捨てることなく長期的にコミットしてくれると見ることができる。
 だが、当然のことながら、そこにはTPPが念頭にある。アジアでのアメリカの軍事的プレゼンスの拡大は、一方で経済的プレゼンスの拡大も視野に入っている。アジアでのアメリカの軍事力増強は、アメリカにとって経済的に十分にペイすると読んでいるのだろう。
 オバマは中国側の警戒心については、中国封じ込めの意図は無いと説明し、中国もTPPに参加するように呼び掛けている。だが、もちろん中国が現状のTPPの自由貿易のルールのもとでは参加できないことを知っている。
 アメリカは、これまでの中国との2国間交渉では、常に中国通貨切り上げ交渉が不調に終わっていた。
 中国のTPP参加とは中国通貨切り上げを意味する。また、日本をはじめとする先進国を悩ませている中国の知的所有権の問題にも切り込むことになる。
 オバマは中国との経済交渉において連敗していたのだが、今度のTPPとアジアでの軍事プレゼンス拡大によって、中国の喉元に匕首をつきつけた。オバマは、中国の警戒心を宥める発言をしているが、心中察すると、してやったり、の思いだろう。
 アメリカといえども、もはや1国だけでは中国パワーには対抗できない。日本が1国では中国とやりあえないのと同じだ。地域間連携によって超大国・中国に圧力をかける。

 オバマは16日にもオーストラリアとの軍事関係強化に言及していて、それを韓国、日本、フィリピンからオーストラリアにつながるセキュリティ・アーキテクチャの一環であると言っている。
 インタ−ネットに詳しいオバマらしい言い方だ。セキュリティ・アーキテクチャとは、インターネットが外部の違法な侵入者をブロックするための暗号化技術のことだ。
 もちろん、セキュリティには軍事面の安全保障という意味もある。
 ダブル・ミーニングを持つこの言葉をインターネット用語のしゃれた流用ではなく、別の意味で解釈するなら、安全保障の構築という意味があり、地政学的戦略として考えれば、環太平洋安全保障構想となる。
 こうなると、この構想の向かい合う相手は中国だけでなく、最近独りよがりの外交政策が目立つロシアもそこには含まれよう。

 このようにTPPは環太平洋防衛構想とも連動しており、日本が戦略的にTPP参加国との協力関係を構築できれば、ロシアや中国に対して抱えている未解決の外交問題の解決を促進する触媒となり得るのではないか。
 問題は、日本の外交にホリスティックでダイナミックな戦略性が欠如していることにある。グランド・デザインを描けない、グランド・デザインを世界に向けて発信できない、だけならまだいいが、他者と協力したグランド・デザイン作りにも貢献できていない。それがこれまでの日本外交であり、成熟国家の日本がこのままではまずいのだから、今度のTPP参加により日本は成長するべきだろう。
 もちろん、成長云々の問題ではなく、日本人の民族的特性までは変えられないのだから、外交交渉そのものが2国間であれ、多国間であれ日本には向いていない、という意見もあるだろうが。



posted by 春眠 at 07:44| Comment(0) | 外交・軍事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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