2012年01月30日

日本の対米交渉力

 日本は戦後ずっとアメリカとの交渉では押しまくられてきた。
 終戦後すぐにアメリカの占領下でアメリカの指導のもと日本が再建されたこともあって、アメリカには逆らいにくいという心情が交渉担当者にあったのかもしれないし、経済大国・軍事大国のアメリカに逆らうと何をされるかわからないという潜在的な恐怖心もあったのかもしれない。

 そういう心理的な要因も対米交渉で弱みになっていたかもしれないが、それよりも日本の戦後経済は国内保護から開放、自由へ、経済弱者から経済強者への道であって、そうなると自由開放経済、強者の経済のモデルはアメリカにあるので、日本が自由経済のシナリオを持っていなければ、前例としてのアメリカの仕組みに従ったほうが安全で簡単だとの判断にもなるだろう。
 日本の経済がアメリカを中心とする自由な世界経済の恩恵を受けてる以上、新しい自由経済のシナリオを独自につくってもアメリカと世界が受け入れなければ、貿易に依存する日本は経済的に行き詰る。
 だから、アメリカの自由経済のモデルを取り入れてしまったほうが、日本で独創的な自由経済の形を創造するよりも楽なのだ。それがときに交渉の敗北に見える。

 戦後の経済成長で経済弱者から抜け出し、経済を自由化するとき、自由化の遅れた日本は自由化先進国のアメリカやイギリスから学ぶ。
 明治維新で海外から工業技術と近代的な統治を学んだように、最近までの2、30年は自由化を学んでいた。

 日米交渉のとき、アメリカは日本国内の自由化が遅れ、規制の強い領域を狙って交渉を仕掛けてくる。
 日本国内の規制に不満を持つ層に向けてアメリカは訴えかけ、自由化は日本国民を幸せにする仕組みだと説明する。
 こうして日本国内が分断されるので、日本の対米交渉担当者も主張すべきポイントがぶれて、アメリカに強く押せなくなる。

 日本の官僚は、アメリカが日本国内にアメリカの主張に同意する層をつくり出して、日本国内のアメリカ支持派の後押しをテコにして、対日交渉で優位に立つ、とこぼす。
 対外交渉担当者の背後にいる自国民が割れて、対外交渉担当者を国民が一丸となってバックアップできなくなれば交渉では勝てないのだそうだ。

 ただ、日本も逆にアメリカ国内の意見の相違を利用して、対米交渉することができないわけではない。
 BSE騒動のとき、アメリカの中小畜産業者は日本の厳しい基準に従うと言ったのにアメリカ政府がそれを許さなかった。大手の畜産業者はロビイングで政府を抑えているので、中小業者の言い分は通らなかった。
 規制の厳格化は、中小事業者にとってはチャンスでもある。アメリカで排ガス規制が厳しくなったとき、ビッグスリーが抵抗していたのに日本の新興自動車メーカーだったホンダはすぐに従い、それがホンダのアメリカでの躍進のきっかけとなった。
 アメリカ政府が当時の中小畜産業者の言い分を認めていたら、アメリカ国内の畜産業界で下剋上が起きていたかもしれない。

 オンライン海賊行為防止法案に見られるアメリカでのネット業界と映画・音楽業界との対立も、フリーソフトの流通が普通になっているネット業界と著作権によって収入を上げる映画音楽業界との業界の仕組みの違いが対立を生んでいる。著作権フリーの立場と著作権という既得権益の保護を強化しようとする立場との違いが浮かび上がっている。
 もしTPPで著作権が重要項目として取り上げられた場合、日本がネット時代の新しい著作権保護の仕組みを提案できれば、日本はTPPでイニシアチブを握れるだろう。
 日本もアメリカの対日交渉にならって、政府代表団のバックにある業界の意向だけを気にするのではなくて、それに反対する業界・消費者を味方につける提案をすれば、対米交渉を優位に展開することもできる。
 もちろん、日本にとっては、これはこれで難しさがある。



posted by 春眠 at 11:36| Comment(0) | 政治・経済・社会・文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月28日

ハリウッドが求めるオンライン海賊の防止とTPP

 アメリカの議会でオンライン海賊行為防止法案の議論が煮詰まってくるとIT業界から一斉に抗議の声が上がった。
 ウィキペディアは抗議のためにサイトを24時間閉鎖し、グーグルもサイトの名称を黒塗りして抗議した。

 この法案はオンラインの海賊を防止しようというもので、国外の海で暴れる海賊にならって、アメリカ国外で違法コピーをしてオンラインで流す者をオンライン海賊としている。
 この法案は、ハリウッドが熱心にロビイングしていて、国外でのアメリカ映画の違法コピーがアメリカ国内で出回るのを防ごうとしている。
 国内での違法コピーではなくて、国外での違法コピーがアメリカ国内に流されるのをブロックして、アメリカの映像ソフトや音楽ソフトの著作権を守ろうというものだ。

 違法コピーをブロックする責任はアメリカ国内のネットサイトが負わされる。
 アメリカの有名ネットサイトはどこも全世界でつながっているので、国外の違法コピーまで業者が監視していられない。
 政府のネットビジネスへの介入の恐れもあり、自由空間インターネットが権力に侵害されることにもIT業界は反発している。
 アメリカ政府がネットへの介入を強めれば、他国のユーザーが離れて、アメリカ以外で別のグローバル・ネットサイトができてしまうかもしれない。そうなればアメリカのネットビジネスの優位性は失われ、アメリカのIT業界は打撃を受ける。

 だから、この法案を巡る騒動は、ネット産業と映画・音楽産業のアメリカ国内の新旧メディアの対立と見ることもできる。

 ところで、TPP交渉では著作権保護をアメリカは強く訴えるのではないかと言われている。
 これはハリウッドの意向を反映したものだ。TPP参加国がすべてハリウッドの著作権を保護してくれるなら、アメリカのIT業界の著作権保護のための負担も多少は減る。
 だが、TPPには中国が参加しない。
 多くの違法コピーが中国で作られ流通していると言われているので、TPP参加国だけではどうしようもない。

 著作権保護とITビジネスの発展は、ときに利害が衝突する。
 現実での友人同士の貸し借りや売り買いであれば問題にならなくても、ネットで同じことをやると簡単に拡大してしまうので著作権者の損害も無視できないほど膨らんでしまう。

 TPPのアメリカ代表団はハリウッドの利益を代弁し、著作権保護の強化を訴えるだろうが、オンライン海賊行為防止法案の反発を見れば、それが必ずしも現在のアメリカのすべての業界の意向でもないとわかる。
 ただし、国内では対立していても、対外的には別の考え方も生まれる。
 TPP参加国すべてがハリウッドの利益を守ってくれるなら、アメリカ国内のネットサイトの負担が減るから支持に転じるかもしれないし、それでも政治のネットへの介入を嫌がって反発は続くかもしれない。どちらに転ぶかはわからない。

 それにしても、ネットでの著作権保護については、TPPのような地域で話し合うべき課題ではなくて、全世界的な枠組みで話し合うべきだろう。
 もちろん、TPP参加国で統一見解を出して、それを全世界的な話し合いの場に提出するのもあり得るだろうが、そうするとTPPが一つの主権を持つ実在のようなものになるので、そこまでやるのかどうか。
 とりあえず、アメリカが対外交渉で出してくる提案が、アメリカ国内の一部勢力によって推されているとしても、それが必ずしもアメリカ国内すべての要求でないことは知っておいても良いかもしれない。

posted by 春眠 at 17:55| Comment(0) | 政治・経済・社会・文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月26日

検察が控訴を断念したJR福知山線脱線事故山崎前社長事案

 神戸地検はJR福知山線脱線事故に関して地裁で無罪判決の出た山崎前社長の控訴を断念し、山崎前社長の無罪が確定した。
 神戸地検と大阪高検では控訴を賛成する意見が大半だったのに、1審判決を翻す新証拠が得られないという判断によって控訴を断念したという。
 最高検は控訴に反対だったそうだ。検察上層部は陸山会事件で小沢不起訴を決めたときは物証が無いことで起訴を諦めさせ、今回の山崎控訴では新証拠が無いことで控訴を諦めさせている。

 今回のような技術の解釈が判決を左右する裁判では、技術的な裏付けのある証言が信用されてしまう。
 JR西日本と鉄道現場で技術と技能に習熟した証人が、供述調書を翻し法廷で事実と技術論を組み合わせて脱線の危険性を否定してしまったため、それが判決にもそのまま反映されてしまった。

 ただ、鉄道技術の専門家の中でもいろいろな意見があって、カーブでのATS未整備の路線などいくつもあるのだから、運行する車両の重量が十分でなかったことに焦点を当てるべきだったという意見がある一方で、福知山線のような軽い車両でもカーブで浮くことなく高速で運転できているという反論もあって、なかなか一致した見解が出てこない。

 また、急カーブでのATS設置は事故当時は義務付けられていなかったので、法規違反が問えないだけでなく、鉄道事業全体として危険の認識が無かったとも言える。つまり、脱線の危険を認識していない鉄道業界にいる山崎前社長も危険を認識していなかったと推論もできる。

 結局、事故を起こした速度違反の運転士が個人的におかしかっただけと済まされてしまった。
 だが、日勤教育の問題など、組織としての問題もあり、組織を統率する者の責任がまったくないとも言い切れない。

 ところで、神戸地裁の判決要旨で気になったのは、山崎前社長が認識していたとされる函館線の脱線事故の解釈だ。函館線には福知山線と同じ急曲線のカーブがあり、福知山線の急カーブ化の年にそこで脱線事故が起きている。
 判決では、閑散区間の長い下り勾配での事故だから、参考にならないと断じている。
 列車があまり走っていないうえに坂道なので、スピードを出しやすいだろうということだが、たとえ平地の運行量の多い路線であっても誤ってスピードを出してしまう危険性は変わらないと思う。
 空いているのと坂道で居眠りなどでうっかりしてブレーキをかけないことが起きるように平地の運行量が多い路線でも後ろが詰まるだけに焦ってスピードを上げることもあるだろう。
 坂道でブレーキを使うのも平地で速度を制御するのも、どちらも運転士の意思であって、うっかりすればどちらの操作も誤るだろう。

 ただ、難しいのは、このレベルの急カーブが危険だとするなら、ATSの設置を義務付けるべきなのにそうしなかったのは行政の責任ともなるし、安全対策が鉄道事業者の裁量に任されるなら、企業の体質が問われ、日勤教育のような訓練方法も合わせた組織の総合的な管理の問題ともなる。
 事故原因に経営と技術、行政の問題も絡み合ったかなり込み入った事案ではある。

posted by 春眠 at 17:38| Comment(0) | 政治・経済・社会・文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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